檻の中
凄惨な光景を目の当たりにして、わたしは激しい動悸に襲われた。
座っていなかったら倒れていたかもしれない。
少女は痛みを感じていないようだが、その苦しみと恐怖は計り知れないものがあるだろう。
自分の健康な身体の一部分が切除されるなど、考えただけで身の毛がよだつ。
『自画自賛するわけではありませんが、我ながら華麗なる手さばきかと……。私は医者ではありませんのでね』
ミスターBは血塗れになった手袋を外すと、新しいものにつけ替えた。
そして再びメスを握り、放心状態で横たわる少女の腹部に切り込んだ。
まるで野菜の皮を剥くような手つきで皮膚を裂いていく。
あるいは、カエルの解剖か……。
苦しげな呻き声を漏らしながら、されるがままになっている少女。
人体はこんなにも簡単に切り裂けるものなのかと、わたしは冷静に観察する自分に驚いた。
脳が、心が現実逃避を始めている……。
これは夢なんだ、わたしが作り上げた悪夢。
『痛くないでしょう? 貴女の前のレディには、麻酔をせずにオペしてショック死させてしまったのでね』
少しも悪びれることなく、淡々とした口調で悪魔が言う。
少女の身体にまた一つ赤い花が咲いた。
腹部がえぐられ、真空パックに入れられる。
少女の喉からヒューヒューと空気が漏れるような音がしていた。
ミスターBはえぐった部分に手を入れ、グチャグチャと容赦なく掻き回した。
『ぐぐっ……んんんんーッ!』
少女が歯を食い縛りながら、痙攣を起こす。
唇の端から血とヨダレが混ざったものが流れ落ちた。
『私ほど優しい人間はいません。なぜなら、胃袋や小腸を引きずり出して床にぶちまけたいと思いながらも、自制しているのですから……』
ミスターBの言葉に、少女の目に恐怖の色がありありと浮かんだ。
そんなことをされて生きていられる者はまずいない。
胸と腹部をえぐられた少女は、血の気を失っているものの意識はしっかりしている。
あんなに出血してるのに……。
わたしは人間の生命力に驚かされた。
『どうか悲観なさらずに。この世には、ライオンに頭をかじられたり、ワニに足を食いちぎられても生き延びた人がいます。事故にでも遭ったと思って、明るく前向きに生きなさい』
教師のような口ぶりで言うと、ミスターBは少女の身体に包帯を巻きつけた。
麻酔が切れたとき、想像を絶する激痛が少女に襲いかかるのだろう。
とりあえずは、助かったんだよね……?
そう思って安堵しかけたが、現実はそんなに甘くなかった。