檻の中
『貴女をオークションにかけて、新しい主人のもとに送り出します。……私以上に可愛がってくれる方が見つかるといいですね?』
ミスターBの言葉に、少女の顔が曇る。
こんな姿になってまで売り飛ばされるとは、夢にも思わなかっただろう。
買い手がつかなければ地獄……。
奇跡的に買い手がついたとしても、何をされるか分からない未知なる恐怖が待ち受けている。
少女は虚ろな目で遠くを見つめていた。
『あぁ、その前に……。やり残したことを思い出しました』
パチンと指を鳴らすと、ミスターBは少女の口に器具を取りつけた。
『んぐぅうッ……!』
器具によって大きく口を開かされた少女が、くぐもった声を上げる。
『少しでも動いたら手が滑って、喉を掻き切ってしまいますよ? そうそう……良い子です』
虫歯治療を嫌がる子供に言い聞かせる歯科医のような優しい声音で、ミスターBは少女の頭を撫でた。
そして舌を掴むと、容赦なくメスを近づけ──
『……ぐぅえええッ!!』
少女の悲鳴が室内に轟いた。
メスを入れるたびに、口の中から血が溢れ出す。
「ひっ……やめて、やめて!」
わたしは無意識に口を押さえながら、小さく叫んでいた。
ブチッと言う音がした瞬間、少女は白目を剥いて気絶した。
『ふう……。“あのご老人”の今夜のディナーは、タンシチューに決定ですね』
ミスターBは赤い塊を手のひらに乗せると、ひそやかな笑いを漏らした。
……“あのご老人”?
ドクンと、心臓が嫌な音を立てた。
先ほど見せられた映像に映っていた、老人の後ろ姿が脳裏に蘇る。
もしかしたら、二人は仲間なのかもしれない。
「ミスターBと七福神はビジネス仲間だ」
イシザキの声によって、わたしは現実の世界に引き戻された。
七福神とは、あの老人の通称だろう。
そう言えば、オークションのときにその名を聞いたことがある。
イシザキに落札されていなければ、わたしの主人は七福神だったのだ……。