檻の中
『……ふん。ちょうどいいヨ。ワタシたちがラブラブなとこ、見てるんだネ!』
意地悪い笑みを浮かべながら、裕太に歩み寄って行くリン。
そして首に手を回したかと思うと、おもむろにキスをした。
「なっ……!」
わたしは椅子から立ち上がって、込み上げる怒りに身体を震わせた。
わざと音を立てて、唇に吸いつく。
裕太が蚊を払うように首を振ると、リンは舌を鳴らしながら強く抱きしめた。
『……っ、やめろよ』
『主人に何言ってるヨ? いつもはもっと積極的なくせに』
『やめろ! 萌、見ないで……』
裕太のかすれ声がやけに色っぽく聞こえて、わたしはドキリとしてしまう。
見たくないのに、画面から目が離せない。
悔しくて悲しくて、爪が食い込むほど拳を握りしめていた。
『……やめろって!』
キスを止めないリンに対し、裕太が心底うんざりした声を上げる。
『お黙り!』
リンが裕太の頬を平手打ちすると、乾いた音が上がった。
「裕太! 酷い……。乱暴しないでっ」
わたしの声に、リンがちらりと勝ち誇ったような目線を送ってくる。
裕太は抵抗を諦めたのか、されるがままになっていた。
『はぁ……。愛してる。ワタシのロミオ』
リンが裕太に絡みつきながら、首筋や耳に唇を這わせていく。
そして、彼の着ているシャツを小さなナイフで切り裂いた。
わたしに見せつけるように、上半身裸になった裕太にしだれかかる。
赤く伸びた爪を皮膚に食い込ませると、裕太が小さく身をよじった。
『ふふっ。可愛い……感じてるネ』
裕太の肌に手を滑らせながら顔を埋めるリンに、わたしは無心に見つめていた。
……いや、正確には無心ではない。
頭の中でリンを何度もナイフで刺していた。
嫉妬心からではなく、裕太を侮辱されたことが許せなかった。
裕太の身体に増えていくキスマークを数えながら、わたしは静かに涙を流していた。
それから、さらなる侮辱が待ち受けていた。
強姦は何も、男からの一方的な行為とは限らない。
その逆のケースだってあり得る。
わたしは眼前に広がる光景をぼんやり見つめながら、なぜかそんなことを考えていた。
これは、道徳の授業なんだ。
倫理観を培うために、映像を見せられている。
あれは裕太じゃなく、彼に似た役者さん。
……そう脳に思い込ませようとしたけど、無駄な努力に終わった。
「ううっ……わぁああん!」
ついにわたしは顔を覆って、子供のように泣き声を上げた。