檻の中



 デートのために綺麗に巻いた髪も、今やすっかりボサボサで艶が失われつつあった。


 よく見ると、服に小さな破れや汚れがある。


 パパに買ってもらったお気に入りのブランドだったのに……。


 わたしは手荒な犯人を恨めしく思った。


 まだ命があることに感謝しなければならないのかもしれないが、この先どうなるかは分からない。


 犯人は何がしたいの?


 わたしは何をされるんだろう……。



 拷問? レイプ? このまま餓死?


 それとも──



「い……嫌ぁっ!」


 恐ろしい想像が矢継ぎ早に頭の中に浮かび、わたしは無意識に髪を振り乱していた。


 それでも、考えることを止められない。


 刑の執行を待つ死刑囚もこんな心境なのだろうか?


 あまりの不安と恐怖に、気がおかしくなってしまいそうになる。



 パパ、ママ……裕太。


 お願い、誰か助けて!



 そのとき、扉の下側にある小窓が音を立てて開き、何かが押し込まれた。


 黒い手袋をつけた手が見えて、すぐに消える。



「……ねぇ、待って! わたしが何をしたって言うの? わたしをどうするつもりなのっ」


 わたしは手足をばたつかせながら扉に駆け寄り、泣きそうな声で早口にまくし立てた。


 しかし相手からの返事はなく、扉の小窓が音を立てて閉まった。


 迷子になった子供のように、言い知れぬ孤独と絶望に襲われる。


 足元に転がる包み紙をぼんやり見つめた後、わたしは機械的な動作でそれを拾い上げた。



 白っぽいパンと、小さな牛乳パック。


 わずかな食糧がずっしりと重く感じる。

 
 わたしは大事にそれを抱えて、壁に背中を預けて座った。



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