檻の中
しばらく歩くと、三階建ての白い建物が見えてきた。
イシザキが門をくぐり、敷地内に入って行く。
どうやらここがスクールのようだ。
グラウンドがあり、体育館らしき施設も併設されている。
驚いたことに、わたしの知っている“学校”と何ら変わりがなかった。
懐かしさに胸が熱くなったが、ここは本当の学校ではないのだと思うと気持ちにブレーキがかかる。
昇降口に入ると、眼鏡をかけたスーツ姿の中年男性が立っていた。
「イシザキ様、ようこそ。お待ちしておりました」
中年男性はわたしたちを見るなり、穏やかな笑みを浮かべて近づいてきた。
「こちらが本校に入学されるジュリエットさんですね?」
「そうだ。高等教育を身につけさせてやってくれ。スパルタでも構わん」
イシザキは意味ありげにニヤリとした。
この男は教師らしく、名札には白川とある。
「カードキーを渡しておく。失くさないよう、肌身につけろ」
イシザキがわたしに向き直り、カードキーをチェーンに通したものを手渡す。
わたしは少し考えて、それをスカートのベルトに取りつけた。
「帰りは寄り道しないで、真っ直ぐ部屋に戻れ。お前がどこにいるかはそいつでお見通しだ」
イシザキは首輪を指し示すと、所在なく立ち尽くすわたしを残して去って行った。
「それでは、参りましょう。ジュリエットさん」
「はい……」
白川は一見優しそうだったが、有無を言わせぬ毅然とした態度でわたしとの間に壁を作っていた。
ここの職員である以上、まともな常識人ではあり得ない。
階段で三階まで上がり、白川について教室へ向かう。
一年A組──どうやら、ここがわたしのクラスらしい。
「私の生徒はみんな優秀で良い子ばかりです。君も、すぐに打ち解けられるでしょう」
白川が微笑み、教室の扉を開ける。
さざ波のように聞こえていた私語がピタリと止み、クラスメートの視線がわたしに集まった。