檻の中



 クラスメートは全員女子で、女子校に転校したような感覚に陥った。


 しかし、ここは普通の学校ではないのだ。


 わたしは緊張と不安を感じながら、俯きがちに白川の横に立った。



「今日から君たちと一緒に学ぶことになった、ジュリエットさんです。買い主はアレックス・イシザキ氏で、落札額は一億円です」


 なぜか白川は、自分のことのように誇らしげに言った。



「一億円!?」


「すごーい」


 一億円と言う言葉にクラスメートたちが一斉に驚きの声を上げる。


 しかし、白川が手を挙げると静かになった。



「では、ジュリエットさん。みんなに自己紹介をして下さい」


「え……。えっと」


 わたしは戸惑いを覚えて、言葉に詰まった。


 本当の名前ではなく、付けられた名前を言うのが何となく憚られた。



「どうしましたか? そんなに気難しくならないでいいですよ、ジュリエットさん」


 白川が穏やかに笑いながら促すように言う。


 だが、その目は笑っていない。


 “ジュリエット”と強調されていることに気づき、わたしは観念して口を開いた。



「は、初めまして……ジュリエットです。よろしくお願いします」


 そう言って頭を下げると、拍手が起こった。


 わたしは空いている席に座らされ、やっと注目の的から外れたことに安堵した。



「ジュリエットって素敵な名前ね」


 ふと、左隣から艶のあるハスキーボイスが聞こえた。


 背中まで伸ばした綺麗な黒髪を一つ結びにした、大人っぽい顔立ちの少女がわたしを見つめていた。



「あ、そ、そう? でも、わたしの本当の名前は──」


「あたしは冴子。冴える子と書くの。よろしくね、ジュリ」


 わたしの言葉に被せるようにして、冴子と名乗る少女が明るく言った。


 ……聞き流された?


 本当の名前の話は禁句なのかもしれないと結論づけ、わたしはそれ以上聞かないことにした。


 机の中に教科書とノートが入っていた。


 授業内容は普通の高校と大差なく、少し拍子抜けした。


 待ちに待った休み時間になり、わたしは救いを求めるように冴子に話しかけた。



「ねぇ……。あなたはいつ、ここに来たの?」


「んーと、半年くらい前かな。このクラスでは古株よ」


 冴子はチラリと舌を見せて、可愛らしく肩をすくめた。


 わたしが本当に聞きたいのはそんなことじゃなくて……。



「あなたも誘拐されたんでしょ。ここから逃げたいと思わない?」


 冴子に顔を近づけ、周りを気にして声をひそめた。






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