檻の中
「どうしたの、ジュリエット」
「何?」
二人が食べる手を止めて、目を丸くしてわたしを見つめる。
わたしはゆっくり味わった後、口を開いた。
「……美味しい」
「何よ、ビックリするじゃない」
呆れ顔の冴子をよそに、わたしはサンドイッチを黙々と頬張った。
下手なパン屋のサンドイッチより美味しい。
「それにしても、みるく。何の用事だったのよ? ご主人様同伴だなんて、よほどのことだわ」
冴子の興味がみるくに移る。
最初、みるくは言うのを渋っていた。
しかし冴子の追及に根負けしたのか、困ったような笑顔になった。
「本当はもう少し落ち着いたら報告したいと思ってたんだけど、仕方ないかぁ。実はあたしね……」
みるくは声をひそめて、顔を近づけてきた。
「──妊娠したの。三ヶ月だって」
自分のお腹を撫でながら言うみるくに、一瞬何のことか分からずキョトンとしてしまった。
照れ臭そうにはにかむ彼女の顔を見る限り、冗談ではなさそうだった。
「あらあら、おめでとう。ご主人様との愛の結晶ね」
冴子がニッコリしながら拍手をする。
この状況下で、妊娠したクラスメートをすんなり祝福できる神経を疑った。
相手はもちろん、自分をオークションで買った男だろう。
現実には大人が未成年を妊娠させることは、犯罪行為に等しい。
おめでたいわけないじゃない……!
わたしは内心穏やかではなかったが、みるくが嬉しそうにしているので何も言えなくなってしまった。
「もうすぐ休学手続きを取って、ご主人様と一緒にホテルに住むの。出産したら、また復学するつもり」
ふわふわした見た目とは裏腹に、しっかりとした計画を口にするみるく。
やはりこの世界は普通ではないのだと思い知らされ、頭がクラクラしてしまう。
「いいなぁ、赤ちゃん。あたしもご主人様の子供が早く欲しいのに、なかなか授からないのよね」
「……ゴホッ、ゴホッ!」
「大丈夫? ジュリエット。はい、お水」
サンドイッチを喉に詰まらせたわたしを見て、みるくが紙コップに入った水を渡してくれた。
……冴子まで、そんなことを。
健全な女子高生の会話には程遠く、理解出来なかった。