檻の中



 サンドイッチを半分ほど食べ終わったとき、口の中に固いゴムのようなものを感じた。


 噛み切れない……。


 顔をしかめながら吐き出すと、わたしはソレをまじまじと観察した。


 ゴムではなく、赤茶色っぽい木片のようなものだった。


 そして、わたしは木片の正体に気づいてしまった。



「ヒッ……!」


 テーブルに投げ出したそれはコロコロ転がり、中央で止まった。


 血のついた、人間の指の一部……。


 こんなものをサンドイッチに挟むなんて、イシザキは何を考えているのだろう?


 わたしは戦慄にうち震え、吐き気とパニックに襲われた。



「いやぁああああっ!!」


 身の毛もよだつ悲鳴が自分の口から出たものとは気づかずに、わたしはその場に崩れ落ちた。



「ジュリ!?」


「しっかりして、ジュリエット!」


 遠くから二人の声が聞こえていたが、わたしの意識はそこでプツリと途絶えた。


 真っ暗な闇の底に沈んでいく……。



「……っ!」


 ビクッとして目を開けると、わたしは暗く冷たい地下道に倒れていた。


 いつの間に、ここへ……?


 騒いだからスクールから追い出されてしまったのだろうか。


 まだ口の中に不気味な指の触感が残っていて、わたしはオエッと軽くえずいた。


 それにしても肌寒い……。


 地下道に漂う冷気に震えながら、よろよろと道なりに進んで行く。


 途中、水の音が静かに響いてきた。


 喉の渇きを覚えて近づくと、奥まった場所に小さな池が現れた。


 口をゆすぎたくて手を伸ばそうとすると、池の表面にわたしの顔が映った。


 見ているうちに歪んでいき、それは骸骨の姿になった。


 ──池の底に無数の頭蓋骨が沈んでいた。



「きゃああああっ!」


 わたしは尻餅をついて後退りしながら、必死におぞましい池から離れた。


 やっとの思いで立ち上がると、人影が視界を遮った。


 ……裕太?


 目の前に、愛しい彼氏の姿があった。


 わたしを見つめながら笑っている。



「裕太、どうして……」


 近づこうとすると、彼はサッと身を翻して走り去った。



「あっ、待って!」


 恋しさに駆られて、裕太の後を追いかけた。


 静まり返った暗闇の向こうに人の気配がする
……。


 勇気を出してそっと覗いてみると、わたしの目に信じられない光景が飛び込んできた。



「はぁっ、ロミオ……!」


 リンと裕太が全裸で抱き合っていた。


 息をするのも忘れて見つめていると、リンがわたしに気づいて顔を上げた。


 真っ赤に裂けた口から細長い舌を出し、蛇と化した髪がシュルシュルと伸びていく。



「見ィたァなァ……」


 リンは嗄れた声で言うと、突然裕太を丸呑みにした。


 その瞬間、わたしの全身に大きな衝撃が駆け抜けた。





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