檻の中
イシザキに見せられた拷問映像で、ガスバーナーで少女を焼いた主人の声によく似ていた。
まさか……。
青ざめた顔で後退りするわたしを見て、ヒカルは嬉しそうに笑った。
「怖がらなくていいよ。僕は、君の主人じゃないから。イシザキさんは可愛がってくれてる?」
世間話でもするような気軽さで、わたしに話しかけてくる。
目の前の無邪気な少年が、あんな残酷なことをするなんて信じられなかった。
しかし、ここにいる時点で普通の子供ではないのだと言う事実に気づかされる。
「何もされてないわ……今のところは」
わたしは迷いながらも、本当のことを口にした。
すると、ヒカルは意外そうに眉を上げた。
「マジ? 殺しのプロのあの人が……」
「──え?」
物騒な呟きに、思わず顔を強張らせる。
殺しのプロって……。
イシザキは、そう言う人だったの?
「その筋でも有名な人なんだよ、イシザキさんは。何せあの七福神のおじさまの……おっと、これ以上は僕の口から言えない」
わざとらしく口を塞ぎながら、取り繕うヒカル。
この少年の思惑がいまいち分からない。
わたしの専用通路で待ち伏せしていたのは、何らかの意図があるからだろうが……。
「何でここにいるの?」
「別に。暇潰しさ。一億円のジュリエットを見たかったって言うのもあるかな」
頭の後ろで両手を組みながら、事も無げに言う。
本当にそれだけ……?
「部屋に行ったら留守だったからさー。スクールに通ってると聞いて、この道で待ってたんだ」
尻尾を振る子犬のように、ヒカルは愛想良く言った。
待ってたと言うより、待ち伏せてたんでしょ……。
「じゃあ、僕はタウンに遊びに行くから。まったね~、ジュリエット!」
飛び上がらんばかりの勢いで手を振ると、ヒカルはあっと言う間に姿を消した。
「……何なの、あれ」
わたしは解放され、内心ホッとしていた。
あんな普通っぽい子が、少女を拷問にかけているなんて……。
一体、何者なのだろう?
手のひらをみると、血が固まっていた。
「ハァ……」
気を取り直して、わたしは部屋に向かおうと足を進めた。
ふと、弾力のあるものを踏みしめた感覚を靴底に感じた。
……何?
恐る恐る視線を下に向けると、まだら模様の蛇がとぐろを巻いていた。
「きゃああああっ!!」