檻の中



 それからシャワーを浴びて、洗濯をした。


 その間に課題のプリントを片付けてしまおうと、わたしは台の上を机代わりにした。


 ……筆記用具がない。


 学校から鞄を持って帰るのをすっかり忘れていた。


 ため息をついて椅子にもたれかかると、ふとモニター画面の裏に鉛筆と消ゴムが入ったペンケースが見えた。


 わたしがスクールに行っている間に、職員が持って来たのだろう。


 これが、痒い所に手が届くってやつ?


 こっちの動きは丸見えだもんね……。


 もう一度ため息をつくと、わたしは課題に取りかかった。
 
 
 小一時間ほどで課題を終わらせ、ゆっくり伸びをする。



「はぁー、終わった……」


「ならば、今日の褒美をやろう」


「……きゃっ!?」


 背後からイシザキの声がして、わたしは反射的に身をすくめた。


 いつからそこにいたのだろう。


 どうやら、わたしは集中すると周りの音が聞こえなくなるタイプらしい。


 モニター画面が明るくなる。


 ご褒美とは、裕太のことだろう。


 今のわたしにとって、裕太を見ることは果たしてご褒美なのか……分からなかった。


 画面に映った裕太の姿を見た瞬間、わたしはハッと息を飲んだ。



「裕太……?」


 目の前の彼は、以前の彼と様子が違っていた。


 伸びた前髪から覗く目は、どことなく冷たい色を帯びていた。


 片膝を立て、もう一方の足を投げ出している。


 その気だるそうな雰囲気から、裕太に似た別人のように見えた。


 声をかけようとして口を開いたが、わたしは躊躇してしまう。


 ……何か、怖い。


 ふいに裕太が立ち上がり、足に鎖をつけたまま檻の中を歩き出した。





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