檻の中
しかし、わたしは覚悟を決められないまま、檻の中の生活を続けていた。
スクールに通い、部屋に戻り、課題をする。
たったそれだけの行動だが、じっとしているよりは気が紛れた。
妊娠中のみるくは休学し、わたしは他愛もない話をして冴子から情報を引き出そうとした。
しかし、彼女は“現実”の話をしたがらず、この異常な世界に染まり切っていた。
どうしたら、冴子の目を覚ますことが出来るのだろうか?
ここでは主人が絶対的な存在である。
わたしがイシザキを恐れるように、彼女もまた自分の主人を恐れているはずだ。
愛していると言っていたが、多分それは思い込みだろう。
恐怖心を愛にすり替えて、生きているだけだ。
そうしないと、発狂してしまうから……。
考えながら歩いていたら、何かにぶつかった。
「……痛っ!」
額を押さえながら振り仰ぐと、厳つい顔をした若い男が壁のように立ちはだかっていた。
スキンヘッドに、無数のピアス。
トレーナーの上からでも、筋肉質であることが一目で分かった。
うわぁ、怖そうな人……。
わたしは小さく頭を下げて、男の脇をすり抜けようとした。
「おい。ちょっと待て」
ガシッと腕を掴まれ、強引に引き戻された。
男が細い眉の下で目を細めながら、わたしを品定めするように凝視する。
「な、何ですか?」
「おめー、見かけないツラだな。新入りかァ?」
ガムをくちゃくちゃ噛みながら、ハスキーな声で問いかける。
「ん? アレックス・イシザキ……。ま、マジかよ!」
首輪の名前に目を留めたスキンヘッドの男が、明らかに動揺した様子を見せる。
な、何だって言うの……?