檻の中
「ってことは、おめーがイシザキさんの……。ははぁん。一億ねぇ」
驚いたかと思うと、今度はニヤニヤしながらわたしを見つめるスキンヘッド。
どうやら知り合いらしい。
見知らぬ男にジロジロ見られて、居心地の悪さを覚えてしまう。
「あの……もう行っていいですか?」
「あー、ちょい待ち! 俺さぁ、今からある所に行くんだけどよ。おめーも連れて行ってやる」
スキンヘッドが親指を立てて、歯を見せて笑う。
……ある所?
訝しげな顔をするわたしをよそに、スキンヘッドはすでにその気になっていた。
「じゃあ行くぞ! あ、そうだ。俺はラムチョップ。下の奴らはラムさんって呼ばれてる」
よろしくな、と分厚い手を差し出してくる。
わたしは渋々握手をして、逃げる隙を窺っていた。
ラムチョップって……変な名前。
「ラムチョップの由来、分かるか?」
「いえ……」
なぜか肩を並べて歩きながら、わたしはラムチョップの言葉に首を傾げた。
そんなの知るわけないじゃない、と呆れつつほんの少し興味をそそられた。
「俺はなぁ、ラムチョップが大好物だったんだ。あるとき、ラムチョップ早食い競争が行われて俺は優勝した。が、その後に腹を壊してな……」
ラムチョップが遠い目をして、ため息をついた。
お腹を壊すほど食べたのね……。
わたしはいつの間にか、ラムチョップの話に引き込まれていた。
ゴツい見た目とは違い、なかなかユーモアのある男だと思った。
イシザキ、ミスターB、源ヒカル……。
今まで会った男たちとは少しタイプが違う。
「俺は早食いなら誰にも負けねぇ。次は、鯛焼きの早食いで優勝するつもりだ」
わたしは先ほどよりも警戒心を解きながら、ラムチョップの自慢話を聞くともなしに聞いていた。
しかし、一体どこに行くのだろうか……。