檻の中
その帰り道、わたしは専用地下道を歩きながら考え事にふけっていた。
あの子供たちは暗闇の中で生まれ、暗闇の中で一生を過ごすのだろう。
屈託のない笑顔を思い出すだけで、胸がギュッと締めつけられた。
幸せって何なんだろう、と……。
太陽や空や雨を知らずに、仮想街が現実だと思い込んでいる子供たち。
いつかここが崩壊し、彼らが本物の現実の世界を知る日が来ますように──。
ふと、視界の端に黒い人影をとらえた。
考え事をしていたわたしはドキリとし、一気に警戒心を抱いた。
「……誰?」
立ち止まり、怪しい人影に恐る恐る声をかける。
すると、人影が弾むように近づいてきた。
ぼんやりとした灯りの下、姿を現したのは青白い顔をしたゾンビだった。
充血した目に、牙の生えた口から血を垂らしている。
「きゃあああっ!」
地下道内に、わたしの悲鳴がこだまする。
ゾンビがさらに近づいてきた。
走って逃げようとするけど、足が思うように動かない。
逃げなきゃ……殺される!
よろめきながら走るわたしの肩をゾンビが掴んできた。
「いやぁああっ!」
「ジュリエット、僕だよ!」
……え?
ゾンビが喋った?
この声はもしかして……。
ゾンビの被り物を脱ぐと、源ヒカルがわたしにニッコリ笑いかけてきた。
「な、何だ。ヒカルくんか……」
わたしは胸に手を当てながら、安堵のため息をついた。
しかしゾンビほどではないが、この少年もかなりの危険人物だ。
何せあの蛇爆弾……。
「そうだ! あなたねぇ、どういうつもりなの? 蛇に爆弾をしかけて……危ないじゃない」
あのときの恐怖と怒りを思い出し、わたしは声を尖らせた。
ヒカルは目をパチパチさせた後、少しバツが悪そうな顔ではにかんだ。
「あぁ……あれ? 君にサプライズのつもりだったんだけど、お気に召さなかったかな」
その悪びれない言葉に、わたしは戦意を喪失した。
話して分かってくれるような相手ではないのだ。
そんな人間など、ここには存在しない。