ma cherie *マシェリ*
「マジかよ?」


「うん、マジマジ」



そう言われてもにわかには信じられなかった。

サキはオレには天使みたいに可愛く見える。

だけど客観的に見て、飛びぬけて美形だとかいう容姿ではない。


メイクなんてほとんどしてねぇし、服装だってナチュラルだし。

いたって普通の女の子だ。

外見だけで言うなら、あんな王子様みたいな美少年とつりあうとは思えない。

うん。

そうだ。

やっぱありえない。

オレは自分で導き出した結論に納得しようとした。


だか、その時、オレはビクンと肩を震わせた。

ふいに王子が顔をあげてこちらを見たからだ。

吸い込まれそうに澄み切った瞳がオレに向けられたような気がしたんだ。

だけど、それはすぐに勘違いだとわかった。


彼の視線はオレではなく、オレの脇をすり抜けて、さらに厨房の奥にいるサキに向けられていたから。


オレはサキと王子の様子を交互に見比べる。


すると、ふいに王子がフワリと微笑んだ。

サキが彼の視線に気付いたからだ。
(オレの視線には気付かなかったくせに!)


王子は周りにいる全ての人を魅了するかのような笑顔のまま、そっと右手を上げてサキに軽く手を振った。


それに対してサキは頬をピンクに染める。

口を尖らせて「もぉ……」と小さく呟きながら。




――何だ、これ……?
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