ma cherie *マシェリ*
もうパニックになったオレは、とりあえず女の腕をひっぱる。

そして側にあった女子トイレのドアを開けると、そこにぐいぐいと彼女の体を押し込んだ。

あれ……?

前にもこんなことがあったような……?

デジャブ?

なんて、今は物思いにふけってる場合じゃないだろオレ!


まさに間一髪。


そんな感じで彼女をトイレに隠せた瞬間、サキが事務所から出てきた。


「マヒロさん? なんで入ってこないんですか? どうかしました?」


「はぁ? べっ、べつに。なんもねぇって!」


うわぁ。

あきらかにキョドってるし。


「ほんとですか? なんか顔色悪くないですか?」


「悪くない悪くない。いたって健康」


オレはニカって感じで笑顔を作った。

相変わらずこめかみはぴくぴくとひきつっていたけど。


「ふーん。なんか怪しいなぁ……」


サキはオレの背後にある女子トイレのドアを、目を細めてじっと見つめている。


「何か隠してるでしょ? あたしに後ろめたいことでもあるんじゃないですか?」


なっ……何なんだっ。

いつもは鈍感なくせに!

なんでこんな時だけ妙に鋭いんだ。

これが女の勘ってヤツなのか?


さらに一歩オレに近づくと、顔を寄せてきた。

そして、まるで犬みたいに鼻をくんくんと鳴らす。



「やっぱり……」


やっぱりってナニが――――?!


< 110 / 278 >

この作品をシェア

pagetop