ma cherie *マシェリ*
ツンツンと窓をつつく望月の指の先を目で追う。


オレ達のいる店の向いにあるのは、メンズのセレクトショップ、“Sputnik”(スプートニク)。

最近オープンしたばかりの店で、服はもちろんのこと、雑貨やアクセサリーも充実しているとの評判だ。



サキはちょうどその店から出てきたところだった。


紙袋を提げているところを見ると、その店で何かを買ったのだろう。


すぐにオレの頭に浮かんだのは、王子。

あいつのために買ったのかな……。


なぜかサキはその店の前からなかなか動こうとしない。

困ったような顔をして手をかざしている。


――雨……か。


そういえば、さっきから小雨がパラついていた。

オレ達が覗いているこの窓にもポツポツと雨粒がついていて、夜の街の灯りを反射させていた。


急な雨に傘を用意していなかったんだろう。

サキは紙袋を大事そうに抱えながら、店の軒下でかろうじて雨をしのいでいた。


「チャーンス」


望月がいやらしいぐらいニヤリと微笑んでオレを見る。


「は? 何が?」


「ほれ」


そう言って差し出したのは折りたたみ傘。


「お前、用意良すぎじゃね? こんな気の効くやつだっけ?」


オレの嫌味をスルーして、押し付けるようにさらに傘を近づける。


「いいから。持ってけって。これ口実に一緒に帰ったらええやん?」


ニヤニヤ笑っている望月から傘を受け取ると、まだ残っている料理をそのままにして、オレは立ち上がった。
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