ma cherie *マシェリ*
店の外に出て、傘を広げる。


「サキ!」


オレは向いの歩道にいるサキに声をかける。

だけど車の音や雑踏の騒音に掻き消されて、その声は彼女の耳に届きそうになかった。


目の前の横断歩道は赤信号。

早く青にならないかともどかしい。


オレはイライラしながら、行き交う車の向こうにいるサキを見失わないように見つめていた。


やがて車の流れが止まり、信号が青に変わった。


ホッとしたオレは駆け出す。

だけど、その足はすぐに止まってしまった。


店の前にいたサキが誰かに手を振ったからだ。


もちろんその相手はオレではない……。


安心しきったような笑顔で手を振るサキ。

オレはその視線の先を追った。


見覚えのある黒シャツ。


最初は傘で隠れていた顔もやがてはっきりと確認できた。


例の王子が小走りでサキに近づいていた。

サキは迷うことなく、差し出された彼の傘に入る。

二人は楽しそうに会話しながら、歩き始めた。

一つの傘の中、肩を寄せ合って。


オレはただ呆然とそれを見つめるしかなかった。
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