ma cherie *マシェリ*
「めっちゃ緊張する~。探偵になったみたいやわぁ……」


一方オレの隣であからさまに浮かれているのはもちろん望月。

こいつの辞書にはどうやら【羞恥心】って言葉が載ってないらしい。

結局オレ達はあの二人の後をずっとつけていって今に至るってわけ。


サキと王子はあの後駅に向うと、そのまま電車に乗り込んだ。

当然ラブホテルには行かなかった。



オレ達がいるのはサキ達と同じ車両。

ラッシュアワーの車内はかなり混雑していて、スーツ姿のサラリーマン達がオレらの姿を隠してくれた。

オレと望月は、その隙間からチラチラと二人の様子を窺っていた。




オレは新聞紙から目だけを出した状態で二人を盗み見る。

だけどその瞬間、慌てて顔全てを隠した。

一瞬だけど……王子と目が合ったような気がしたんだ。

なぜかヤツはオレの顔を見て、ニヤリと微笑んだ。


いや、気にしすぎかな。

アイツがオレの存在を知っているわけがない。

あれだけ店に通っているわけだから、顔ぐらいは覚えているにしても……オレがサキを好きだとか、オレ達が尾行しているだとか、そんなことには気づいてないはずだ。


そんなこと考えていると、電車が止まった。


サキと王子が動き出すのを見て、望月が声を出した。


「あ! 降りるで!」


望月に引きずられるようにオレはホームに降り立った。

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