ma cherie *マシェリ*
やがてたどり着いたのは、白い二階建ての小さなアパート。

二人は階段を上っていくと、二階の一番端の部屋の前で足を止めた。


おい、ちょっと待てって。

まさか……。


オレの願いも虚しく、その部屋の中に消えていく二人。

ドアが閉まる瞬間、気のせいかもしれないけど、また一瞬、王子がこちらを見たような気がした。


それはまさに決定的な瞬間だった。


このアパートがサキか王子、どちらの部屋かはわからないけど……。

どっちにせよ、二人は部屋を行き来するような仲なんだろう。


「……そういうこと」


一人で納得しかけたオレの肩を望月がポンッと叩いた。


「まだまだやで」


何を考えているのか、アパートの階段をとんとんと軽快に昇っていく。


「ちょ……待てって」


オレも慌ててついてく。

もちろんヤツの行動を止めるためだ。


まさかと思うけど、部屋に乗り込むつもりか?


望月はオレに構うことなく、ズンズンと足を進めていく。

そしてその足はサキ達が入った部屋の前で止まった。


「おい。どうすんだよ?」


「しっ」


望月が慌てて口元に人差し指を立てた。


カラカラと音を立てて、玄関横の小窓がほんの少し開いたからだ。

望月はゆっくりと体を動かして、そっと小窓に顔を寄せた。

どうやら中を覗こうとしているらしい。


「おいっ。やめろって」


できるだけ声を押し殺してオレが注意をしたその時……。
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