ma cherie *マシェリ*
「コーヒー入れるね」


窓の隙間からサキの声が漏れ、オレ達は慌てて窓の下にしゃがみ込んで身を隠した。


小窓のある部屋はキッチンになっているようだ。

頭上からカチャカチャと食器が擦れるような音と、それから水を流すような音が聞こえる。

王子のためにコーヒーを用意するサキの姿が目に浮かぶようだった。

この部屋の中には二人の生活が存在するんだろう……。

そんなことを思い知らされた気がした。


ギュっと胸が苦しくなって、オレは息を吐き出した。


「……カッコ悪っ……」


「ん?」


「望月ぃ……恋愛って、なんか……かっこ悪いことの連続だな」


「知らんかったん?」


望月がまるでからかうようにニヤニヤ笑ってる。

お前は知ってんのかよ?ってつっこみたかったけど、とりあえず言葉を飲み込んだ。


「まぁな。オレ……そういうのから今まで逃げてたからさ、こういう気持ちってダサいって思ってたつうか。ほんとだせーよ。ここんとこサキに振り回されっぱなしだし。なんかガラじゃねぇよな、最近のオレ……」


「確かになぁ……」


望月は思い出し笑いでもするかのようにクックッと肩を揺らしている。


「けど、そういうマヒロ君、オレ好きやけどな。それに……それだけ本気ってことやろ?」


「ああ……」


そうだ。

きっとこの想いはオレが自覚してる以上に重症なんだと思う。

だから……。


「もう、帰るぞ」
< 127 / 278 >

この作品をシェア

pagetop