ma cherie *マシェリ*
アイちゃんは思い出し笑いをするかのように肩を揺らしてタバコの灰を灰皿に落とした。


「イスをガタガタ動かして持ってきてさ……。オレの席の前に座ったかと思ったら、そのまま無言で自分の弁当開き始めたんだ。で、唖然としてるオレに『一人で食べてもおいしくないでしょ?しょうがないから一緒に食べてあげるよ』だって。オレ、『オレと一緒にいると、お前も友達なくすよ?』って言ったんだ。そしたら何て言ったと思う?」


さぁ……?と、小首を傾げるオレにワクワクしたような目を向けるアイちゃん。


「『こんなことであたしを嫌いになる友達なら最初からいらない』だって」


「すげ……」


「でしょ? あの時のサキの顔、今でもはっきり覚えてるよ。目に涙溜めて……。けど涙こぼさないように必死で目を見開いて堪えてた。サキも……実際怖かったんだと思う。いっぱいいっぱいだったんだよ。ただでさえ色んな複雑な思い抱えてんのにさ……。それでもオレのこと心配してくれて、ああいう行動に出たんだと思う」


「で、実際、その後どうなった? サキも……みんなから無視されたの?」


「ううん」


アイちゃんは首をゆっくりと横に振った。


「サキの周りの子達は、変わらず接してくれた。それどころかオレとも仲良くしてくれたんだ。女の子って不思議だよね。ゲイに興味ある子とかいるんだよ。『そういう人と友達になってみたかったんだ!』とかあっけらかんと言われてさ。その後もいろいろ言うヤツらはいたけど、いつの間にか友達の輪……みたいなもんが広がっていって……。振り返ってみれば、サキやサキの友達のおかげで高校生活も案外楽しめた気がする」



「つえぇな、サキは……」

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