ma cherie *マシェリ*
・舐めちゃいたいぐらい美味しそう
――――――――-
―――――……
その日の夜。
仕事を終えた帰宅途中、忘れ物に気づいたオレは、再びマシェリに戻った。
フロアには誰もいなかったが、キッチンはまだ灯りがついていた。
「まだ残ってるんすか?」
オレはキッチンの中にいるスタッフに声をかけた。
ちなみに時刻は既に午後11時を過ぎている。
「あ。マヒロ君、お疲れ!」
顔を上げてオレに声をかけてくれたのは、チーフパティシエのユミコさんだ。
「お疲れ様です」
その横でペコリと頭を下げたのは、サキだった。
どうやらサキがユミコさんの指導を受けている最中らしい。
この店で働くようになって初めて知ったことだけど、パティシエという職業は、見た目のイメージとは違ってかなり過酷だ。
一日中立ちっぱなしの肉体労働。
うちはメレンゲなんかも機械じゃなく手で泡立てるので、腱鞘炎になって辞めていくスタッフも少なくない。
この春に入ってきた見習いパティシエの中で残ったのは、結局サキ一人だけだった。
料理人ってのはどこの世界も同じなのかもしれないが、一つ一つ先輩が手取り足取り丁寧に教えてくれるわけじゃない。
五感全てをフル稼動させて、自ら先輩の技を吸収していく。
お菓子作りには綿密なレシピが存在するが、その日の気温や湿度によって微調整が必要となる。
そこはやっぱり経験や勘が物を言う世界なのだ。
サキも仕事中はそうやってユミコさんから技を盗んでいるんだろう。
そして、じっくりと教えてもらう機会があるとすれば、閉店後のこんな時間しかないってわけだ。
この小さな体のどこに、そんな根性と体力が備わってるんだろう。
オレは額に汗を浮かべながら真剣な顔でお菓子に向き合っているサキの横顔をぼんやり眺めた。
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その日の夜。
仕事を終えた帰宅途中、忘れ物に気づいたオレは、再びマシェリに戻った。
フロアには誰もいなかったが、キッチンはまだ灯りがついていた。
「まだ残ってるんすか?」
オレはキッチンの中にいるスタッフに声をかけた。
ちなみに時刻は既に午後11時を過ぎている。
「あ。マヒロ君、お疲れ!」
顔を上げてオレに声をかけてくれたのは、チーフパティシエのユミコさんだ。
「お疲れ様です」
その横でペコリと頭を下げたのは、サキだった。
どうやらサキがユミコさんの指導を受けている最中らしい。
この店で働くようになって初めて知ったことだけど、パティシエという職業は、見た目のイメージとは違ってかなり過酷だ。
一日中立ちっぱなしの肉体労働。
うちはメレンゲなんかも機械じゃなく手で泡立てるので、腱鞘炎になって辞めていくスタッフも少なくない。
この春に入ってきた見習いパティシエの中で残ったのは、結局サキ一人だけだった。
料理人ってのはどこの世界も同じなのかもしれないが、一つ一つ先輩が手取り足取り丁寧に教えてくれるわけじゃない。
五感全てをフル稼動させて、自ら先輩の技を吸収していく。
お菓子作りには綿密なレシピが存在するが、その日の気温や湿度によって微調整が必要となる。
そこはやっぱり経験や勘が物を言う世界なのだ。
サキも仕事中はそうやってユミコさんから技を盗んでいるんだろう。
そして、じっくりと教えてもらう機会があるとすれば、閉店後のこんな時間しかないってわけだ。
この小さな体のどこに、そんな根性と体力が備わってるんだろう。
オレは額に汗を浮かべながら真剣な顔でお菓子に向き合っているサキの横顔をぼんやり眺めた。