ma cherie *マシェリ*
・初めてのこと
「ふーん。サキにもついに彼氏ができたかぁ」
キュッキュッと音を立て、
グラスを磨きながら納得するように呟いたのは、ユマ。
高校の同級生。
あたしはカウンターテーブルに置かれたピーチソーダを飲みながら、その様子を眺めている。
例年より長引いた梅雨があけ、
やっと空の色が濃くなって、真っ白な入道雲が似合う季節になってきた頃。
あたしは久しぶりにもらった長期休暇を利用して、長野の実家に帰省している。
今いるココは、ユマのお母さんが経営する喫茶店。
ユマは漫画家のタマゴ。
去年の暮れに少女漫画雑誌でデビューを果たした。
とはいえ、競争が激しい業界。
駆け出しのユマにそうそうお仕事がくるわけもなく。
普段はこうして、この店でバイトをしているんだ。
「ねぇねぇ……」
ユマはキョロキョロとあたりを確認すると、あたしに顔を寄せてきた。