ma cherie *マシェリ*
そして、いかにも営業用って感じの、いつもより高めの声を出す。
「いらっしゃいませ」
いつのまにかお客さんが来ていたようだ。
泣き顔を見られたくなくて、あたしは俯いたまま、目じりをぬぐった。
足音が近づいてくる。
相変わらず他にお客はいないし、席ならいくらでも空いてるはずなのに、なぜかその人はあたしの隣に座った。
水の入ったグラスをカウンターに置いて、ユマは声をかける。
「ご注文は?」
「あ、いや。オレはこれでいーや」
――え? この声。