ma cherie *マシェリ*
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電話に出たアイちゃんはちょっと不機嫌そうだった。
《もしもし? マヒロ君? オレだけど?》
「……その声、アイちゃん? サキは?」
《サキ、携帯忘れて出てっちゃったみたいだよ。
てか、さっきから何度もかけてこられて、うるさいんだけど》
「……」
《もう、切るね。オレも今日の夕方から出かけるんだ。
あ、そうだ。サキに伝えてよ?》
「何を?」
《急に旅行行くことになってさ。沖縄まで。しばらく帰らないから……って伝言お願い》
「って、オレだって伝えようがないじゃん。あいつ、携帯忘れてるし」
《あ、そっか》
しばらく考え込むアイちゃん。
《じゃさ。今から携帯取りにきてよ?》
「はぁ?」
《サキも今頃困ってるだろうしさ。これ、サキの実家まで届けてよ?》
「何だよ? パシらせる気かよ?」
《あはは。そんなつもりはないけど。
ま、とにかく取りに来てよ。オレも準備で忙しいから、なるべく急いでね》
そこで電話は切られた。