ma cherie *マシェリ*
「あはは。拉致、成功♪」
――拉致って……。
ハンドルを握るお母さんは上機嫌だ。
後部座席に座るマヒロさんは肩を揺らして笑ってた。
結局、強制的にマヒロさんは家まで連れてこられた。
着いた時、マヒロさんは興味深そうにうちの家を眺めていた。
「あ、そっちは店だから。玄関はこっちなの」
手招きするお母さんに、二人でついていく。
「サキんちって、和菓子屋なの? なんかすげー歴史ありそうだな」
マヒロさんが驚いたのも無理はない。
洋菓子の職人であるあたしの実家が和菓子屋だなんて、なんだか微妙だよね。
しかも江戸時代から続いていた老舗だし。
店は昔の風情をそのまま残したような作りになってる。
でも、今は……。
「もう、廃業してるの。おじいちゃんが死んでからは誰も継いでなくて……」
あたしが中学に上がった頃、おじいちゃんは亡くなった。
それと同時に店を畳んで、今は形だけ残されている。