ma cherie *マシェリ*
「ねぇねぇ。マヒロ君て好き嫌いない?」
キッチンの方からお母さんの声がする。
どうやらマヒロさんのために夕食を作る気満々らしい。
すっかりうちとけて、いつの間にか名字じゃなくて下の名前で呼んじゃってるし。
「何でも大丈夫です」
「そ。良かった! といっても、たいしたもん作れないけどね。お口に合うか……」
あたしは居間にいるマヒロさんに冷えた麦茶を出しながら、そっと耳打ちした。
「ごめんね。なんかお母さん、強引で……。マイペースすぎる人なんだぁ……。もー、ほんとあたしも迷惑してるんだよー」
「何か言った?」
片手にピーラー、もう片方の手にはにんじんを持ったお母さんが顔を出してジロリと睨む。
その様子にククッと笑うマヒロさん。
「親子だなぁ……」って、楽しそうに言う。
「サキはお母さん似だな。遺伝子ってすげー」
「うん。顔だけはね、そっくり。だけどあたしはあんなにずーずーしくないもん」
「何か?」
またお母さんが顔を出す。
今度はごぼうを手にしているし。
今夜のメニューはなんなんだ……。