ma cherie *マシェリ*
「オレ、あんまり時間が……。終電に間に合うように帰ろうと思ってるんで」
わき腹にドンッって。
お母さんから肘鉄をくらわされた。
「ほらっ、サキがそんなこと言うから、マヒロ君、遠慮しちゃってるじゃない。
アンタって薄情ねー。せっかくきてくれた彼氏をすぐに帰しちゃうの?」
「やっ、違う……。そうじゃなくて……うちはほら、お父さんが……」
そう言った瞬間、午後6時を告げる柱時計の音が鳴った。
「あ……」
ヤバい。
もう、そんな時間だったんだ……。
――ゴーン…ゴーン……
響き渡る柱時計の音。
あたしにはダースベーダーのテーマソングに聞こえるんですけど。
ゾクッとして、両腕を抱えた瞬間
玄関ドアが開く音がした。
「ただいま」
「おっ……おかえりなさーい」
きっとあたしの声は裏返っていた。
どうしよう。
お父さんが帰ってきた。