ma cherie *マシェリ*
「ごめんなさい」
マヒロさんの顔をまともに見れない。
俯いて、膝の上で拳をギュッと握った。
「なんで謝んだよ」
「だって……。お父さん、なんか失礼なこと言って……」
「ん――……」とマヒロさんはしばらく考え込んで。
「逆に興味湧いちゃったけど」
なんてさらりと答える。
「えっ?」
驚いて顔をあげるあたし。
マヒロさんはいつものように、なんでもないよ……って感じでニッて笑う。
「オレさ、ヘンなとこMなんだよね。なかなか心を開いてくれない人に逆に興味がわくっつうか。
おい、オレの方向けよ、コノヤロー! みたいな気になる」
「コノヤロー……って……」
なにそれ。
なんか肩の力が抜けるっていうか脱力してしまう。
「プッ……」って吹き出して。
「もー、マヒロさんらしいなぁ……」
なんてクスクス笑いながら目じりにたまった涙をぬぐった。
きっとマヒロさんはいつもこうやって、人との間にできた壁を無理にこじ開けるんじゃなくて、ピョンって軽く飛び越えちゃうんだと思う。