ma cherie *マシェリ*
「何よ、急に」
「ん――。お父さんのどこを好きになったのかなぁ……って思って」
ふてくされたように言うあたしに、お母さんはクスクス笑う。
「お父さんて、ホントわかりにくい人なのよね。不器用で複雑。
でも、実は愛情深い人なのよ。それを伝えるのが下手なだけで」
「そうかなぁ……」
なんだか納得できなくてブツブツ言うあたしをお母さんは手招きする。
タンスの3段目の引き出しを開けると、中をあたしに見せた。
「あ……これ……」
そこには、この6月に贈った父の日のプレゼント、Sputnikで買ったポロシャツがきれいにたたまれて入っていた。
それだけではない。
あたしが今までにあげた、ネクタイやTシャツ、靴下なんかも一緒に置かれていた。
「お父さんね。大事にしまってるのよ。『着てあげた方が喜ぶよ』っていつも言ってるんだけどね。もったいなくて着れないみたい」
「他にもね……」とお母さんは押入れの方を見た。
「サキが描いたお父さんの似顔絵とかも全部大事にとっておいてるのよ。そういうのも飾った方がいいのに、陽に当たると痛むから……って。時々こっそり眺めてうれしそうにしてるよ?」