ma cherie *マシェリ*
ここで顔を出すのはバツが悪い気がして、思わず襖の陰に身を隠した。
「いえ、気にしてませんから」
と穏やかに答えるマヒロさん。
「阿久津君……僕はね」
「はい」
「親父……つまり、サキの祖父に嫉妬してるんだよ」
「サキのおじいさん……に、ですか?」
「ああ。
親父はね、明るい性格で、僕とは正反対の人だった。
普段は冗談ばかり言ってるような人で。
だけど、和菓子にかける情熱はすごくてね……」
「ええ」
「いわゆる職人気質っていうのかな。
菓子作りに関しては自分の意思を曲げないんだ。
うちは江戸時代から続く老舗でね。
だけど、老舗なんて名ばかりだった。
和菓子なんて今の人はあまり好まないし。売り上げはどんどん減っていく一方だ」
「……」
「せめて機械を導入して、大量生産でコストを下げることができれば利益は上がる。
僕は何度もそう助言したんだけど、親父は手作りにこだわってね」
お父さんは縁側から見える別棟の工房を指差した。
「あそこが工房だったんだ」