ma cherie *マシェリ*
「親父と同じような目をしてね……。
あれは夢を持っている人間の目だ。
僕は反対した。
だけど、あの子は専門学校も大阪行きも勝手に決めてしまった。
あの行動力には驚いたよ。
子供の頃から、僕の言うことに従わなかったことはなかったのに……。
あの時、サキは初めて自分の意思をはっきりと示したんだ。

厳しく育てたせいか、僕とサキの間には目に見えない溝みたいなものができてしまってね。
サキは子供の頃から僕ではなく親父の方になついていた。
よく工房で親父が和菓子を作るのを見学したりして。
サキにとってあの工房はヒミツ基地や宝箱みたいにワクワクするものが詰まってたんだろうな。
だから、そんなサキがパティシエという職業を選んだのは実は自然なことだったのかもしれない。

だけどね……。
僕は、なんだか自分の生き方を否定された気分だったんだ。
サキが親父のような生き方を選んだことでね……」



最後の方の言葉はかすかに震えていた。



お父さん、そんな風に感じてたんだ……。


あたしがパティシエになるって言ったことでお父さんを傷つけてしまったのかな……。

なんだか泣きそうになってギュッと唇を噛んだ、その時。


今までずっと聞き役だったマヒロさんが口を開いた。



「サキは……」


< 224 / 278 >

この作品をシェア

pagetop