ma cherie *マシェリ*
オレはキッチンへ戻り、カウンター越しにオーダーを通す。


ここからも見える二人の様子から何かを感じているのだろう。


サキは今にも泣き出しそうな顔で立っていた。


だけどオーダー表を見ると、黙って動き出した。

ケーキの並んだショーケースから洋ナシのタルトを取り出し、皿に乗せる。

そして、タルトの横にはバニラアイスを添え、アイスの上からトッピング用のチョコレートを絞る。

なんとか平静を保っているつもりだろうけど、そこで限界だったみたいだ。

絞り袋を持つ手が震え始めた。



「サキ!」


オレはカウンターの外から叫んだ。

サキはハッとしたような顔をしてオレを見つめる。

ギュッと結ばれた唇から泣くのをこらえているのがわかった。


オレは声に出さず、口を動かす。


――(しっかりしろっ)


サキはコクンと小さく頷くと、作業を再開した。

チョコレートを絞り、最後にミントで飾りつけをする。

そして皿の向きを変え、カウンターにコトンと置いた。



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