ma cherie *マシェリ*
お父さんはあたしの手首を掴んだ。


そしてグイッと体を引き寄せ、あたしをマヒロさんから離す。


怒鳴られるっ。


とにかく謝らなきゃ。


「ごめっ……」
「言っておくが……」


ごめんなさい、と言いかけた言葉はお父さんにさえぎられた。



「『サキをお願いする』とは言ったけど、
『嫁にやる』とは言ってないからな!!」


「えっ……」


お父さんの顔を見上げる。


あたしに対して怒ってるんじゃないの?



お父さんは、真っ赤な顔して、マヒロさんを睨んでいる。


こんなに取り乱した表情を初めて見た。


なんていうか、例えるなら、おもちゃを取り上げられた子供がムキになって怒っているような。


そんな表情。



「お……父さん……?」


声をかけると、ハッとしてあたしの手首を離した。


「もう、寝なさい」



いつもの冷静な口調でそう言うと、キッチンを出て行ってしまった。


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