ma cherie *マシェリ*
えーと……。
何今の……?
あんなお父さん初めてみた。
いつも冷静で感情を表に出すことがないのに……。
お父さんでもあんな風にムキになることがあるんだ……。
初めての出来事に呆然としていると、隣でマヒロさんがプッとふき出した。
「お前、やっぱりめちゃくちゃ愛されてるじゃん」
そしてひとしきり笑った後、片手で顔を覆って、ブツブツ呟く。
「あー。
オレ……せっかく信頼してもらったのに。今ので絶対嫌われてるよな……。これが自業自得ってやつ?」
さらにため息一つ。
「つーか、嫁にもらう時、マジで大変そう……」
「へ? 嫁……って……」
驚くあたしの頭をくしゃって撫でるマヒロさん。
「こっちの話」
そう言ってあたしに背を向けて歩き出す。
「ねぇ、マヒロさん、今……」
“嫁”って言った?
って、聞きたいのに。
マヒロさんは
「なんでもねー。オレ、眠いから、もう寝るー」
ふああああと大きなあくびをして、はぐらかされてしまった。