ma cherie *マシェリ*
オレはチョコの乗った皿を静かにテーブルの上に置いた。

佐伯さんは不思議そうな顔してそれを見ている。

『注文してないのに、何で?』――そんな感じだ。


「今日はバレンタインなので」


オレは何食わぬ顔で言う。


「あはは。君からかい?」


佐伯さんは楽しそうに笑った。


「まさか。店からのサービスですよ。うちのパティシエの自信作なんです。よかったら召し上がってください」

「じゃ……遠慮なく」


佐伯さんはそっとチョコレートをつまんで口に入れると、しばらく味わってから、にっこり微笑んだ。


そして、オレではなくオレの後ろに突っ立っていたサキに向かってこう言った。


「ありがとう、サキちゃん。とても美味しかったよ」



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