ma cherie *マシェリ*
サキは何も言わずペコリと頭を下げると、きびすを返して、足早にその場を去った。

オレも慌てて彼女の後を追う。


キッチンへは戻らずに事務所のドアを開けるサキ。

オレも続いて中に入った。


幸いそこには誰もいなかった。


オレに背を向けたまま立ち止まるサキ。


やべ……。

怒ってんのかな。

やっぱ余計なことをしてしまったんだろうか。


「ごめん……。オレ勝手なことして……」


サキの前にまわって顔を覗き込む。

その両目には今にも零れ落ちそうな涙が溜まっていた。


「ごめん」


もう、どうしよもなく申し訳ない気分になったオレはもう一度謝った。


サキはフルフルと顔を横に振る。

そのとたんに涙がこぼれ落ちた。


「ち……違うの……ヒック…」




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