ma cherie *マシェリ*
「ふーん……。でも、長野かぁ……。いいじゃん、雪多いしさ。スノボやりてー。オレ今年まだ行ってねぇよ」


「雪ってそんないいもんじゃないですよ?」


雪のあまり降らない地域に住む人は羨ましがるけど、生まれた時から雪が身近な存在だったあたしにとっては当たり前すぎて、そんなに感動するもんでもなんでもない。

むしろ屋根につもった雪を降ろさなきゃいけないし、冬は重労働が増えるだけなのだ。


「まぁ……でも、ちょっと恋しいかな」


あたしはポツンと呟いた。


ここ大阪では雪なんてめったに降らない。

今日はチラチラと降っていたけど、積もるほど降ることはほとんどない。


「年末も忙しくて実家に帰れなかったし……」


マシェリは年中無休だ。

おまけに秋から冬にかけて、ハロウィン、クリスマス、バレンタイン……ホワイトデーなどたて続けにイベントがあるので、この時期にまとまった休みなんて取れるはずもない。


「長野にいた頃は冬になると雪に囲まれてうんざりしていたのに……いざ見れないとなるとなんか寂しいです」


「そういうもんかもな。当たり前すぎて、そん時は気づかないってことよくあるよな」


マヒロさんは目を細めてにっこり微笑んだ。

その瞳があまりにも優しいから……


なぜか胸の奥が小さく震えた。


顔まで火照ってきちゃう。

なんなんだ、これは……。
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