ma cherie *マシェリ*
あたしはマヒロさんの隣に腰掛けると、グズグズと鼻をすすりながら話し始めた。

今自分が感じていること。

佐伯さんの態度にショックを受けたこと。


「ひどいですよっ……うっ……ぐすっ……こんな大事な時に仕事を優先するなんて……」


「そうかな? そういうことじゃないだろ……」


ずっと黙って話を聞いていたマヒロさんが口を開いた。


「どちらかを優先したからって、どちらか一方だけが大切ってわけでもないんじゃねぇの?」


「え……?」


「んー。例えばさ。サキがユミコさんの作った大事なケーキを両手に抱えている時に……目の前で子供が……そうだな、何か高い塀のようなとこから落ちそうになってるとするじゃない? どうする?」


「助けます……多分」


ユミコさんには申し訳ないけど、その場合だったらケーキよりも子供の危機を優先すると思う。


「じゃさ、その塀の下に人命救助用のクッションが敷いてあったら?」


「それなら、大丈夫だと判断して自分が手を出すことはないかもしれません。へんに助けようとしてもかえって危ないかもしれないし……」


「うん、だよな。多分オレもそうする。オレらはさ、その時その時でなんらかの優先順位を無意識につけてるんだよ。けどさ、助けなかったからって愛情がないわけじゃないだろ?」


「あ……」
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