ma cherie *マシェリ*
「は? 何言ってんですか?」


あたしは慌てて体を起こそうとするものの、マフラーをがっちり掴まれているので、マヒロさんから逃れられない。


「キスしろよ。サキ」


「なっ……なんであたしがキスなんかしなくちゃいけないんですか!」


「バレンタインのお返し」


「はぁ?」


「オレ、サキにチョコあげたじゃん。昨日ホワイトデーだったのに、サキ、なんもくれねぇし。だから、今ここでキスして」


めちゃくちゃな論理だよぉ……。


そもそもマヒロさんがあたしにチョコをくれたのは、“純愛”を見せてくれたお礼だったんでしょう?

だったらそれでもう完結してるはずなのに。

そのお礼に対して、なんでまたあたしがお礼しなきゃなんないのよぉ。



「もう、わがまま言わないでくださ……」


あたしの言葉はそこで途切れた。

マヒロさんが見たこともないぐらい真剣な眼差しで見つめるから。



「キスしろよ……サキ」


ずるいよ。

そんな言い方。

命令口調なのに。

そんなにまっすぐに見つめて……優しい声で囁かないでよ。


あたしはまるでマヒロさんの魔法にかかったみたいだった。


そのまま顔を近づけて、彼の唇にそっと触れた。
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