ma cherie *マシェリ*
望月はゆっくりと頷くと、親指でフロアーを指差した。


「あそこ。あの窓際に座ってる男おるやろ? 黒シャツの」


「ああ……」


その男には見覚えがあった。

というか一度見たら誰だって忘れられないだろう。


なんていうか、王子系っていうのかな?

少女漫画から抜け出てきたかのようなルックス。

背はそんなに高くなさそうだけど、スラリとしたバランスの取れた体型に、小さな顔。

明るい飴色の髪はヘアカタログのお手本みたいに、無造作に……だけど計算されつくしたかのようなスタイルでセットされている。


透き通るような白い肌に黒目がちの大きな目、全てのパーツがまるでCGで作られたんじゃないかってぐらい、どの角度から見てもバッチリ整った顔出ちをしている。

あんな美少年、めったにお目にかかれるもんじゃない。

ただそこにいるだけで、人目に付く存在。

今も周りの女性客達がコソコソと話しながら彼の方をチラチラと盗み見ている。

「かわいー」なんて囁き声がこちらまで聞こえてくる。


そんな様子をぼんやり眺めているオレに、再び望月が耳打ちした。


「アイツ、サキちゃん狙いで通ってるって評判やで?」


「は? まさか!」
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