アナタガスキ

「腹減った、なんか食わして」


そう彼から電話があったのは一時間前のこと。

今日は一年に一度の甘い日だというのに、
そんなことお構いなしの彼。


ネェ、ホントハキヅイテイルノ?


「あーうまかった。りかちゃん本当に料理
 上手いよな」


先週来たときに入れておいた冷凍ご飯で作ったオムライスを平らげて、彼は満足そうに一服している。


「りょうくん以外の人に褒められたい」

「なんでだよ」


カチカチとオイルライターの蓋を開け閉めする音を聞きながら、私はテーブルの端に無造作に置かれた小さな山を見た。


一、二、三、四、………全部で八個か。


そんな私を見て、灰皿にトントンと灰を落としながら彼は苦笑いする。

「ただのお菓子だろ?」

そんな風に言うなら
受け取らなければいいのに。

ありがちなハートの赤い包装紙に包まれた
小さな箱の五つは保険のおばちゃんからとか、
明らかに義理だとわかるからそう言ってもいいけれど。

でも。

残りの三つは絶対に違うよ。

高そうなリボンとか、かわいい箱とか、
気持ちを込めて作りました!って、
ラッピングに気合いを感じるもの。


私の知らない誰かが勇気を出して渡したもの。



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