監視恋愛
気が付けば財布も携帯も持たずに外に飛び出していた。
自転車に乗って全速力でペダルを漕ぐ。漕ぐ。漕ぐ。
美咲さんと出会った公園をショートカットで走り抜けて三階建ての団地の駐輪場に自転車を乗り捨てた。
目指すは一階の角部屋。
インターフォンを鳴らした後に初めて冷静になる。
律儀に呼び鈴を鳴らして、鍵を開けてくれるはずがない。
大体約束もなしにこのタイミングで家まで押し掛けたらいくらなんでも怪し過ぎる。
否、僕の事はどうなったっていい。
本当言うと昨晩の出来事を何もせず傍観し挙句に抜いてしまった事に後ろめたさを感じていた。
盗撮を正当化するわけじゃないけれど、僕が監視していた事で美咲さんが守れるならそれでいい。
そこに見覚えのある黒猫が茂みから顔を覗かせた。
「クロロ!」
〝ニャオーン〟
こちらに来いと呼ばれたような気がして僕は茂みの中を突き進んだ。
早くしないと美咲さんが危ない!