ちょっと黙って心臓
「あのね、この頭よく人に『ライオン』みたいって言われるんだけど! ほんとはたんぽぽ目指してんの!」

「……へぇ」



たんぽぽ目指してる髪型って、あんまり聞かないな。

やっぱり変な奴、夏川。


じゅるるといちごオレを吸い上げる私の目の前で、さらに夏川は続ける。



「だってさ、ライオンはそのまま『ライオン』だけど、たんぽぽって英語だと『ダンデライオン』なんだぜ!? なんかその方がかっこよくね!?」

「………」



きらきら目を輝かせながら熱弁する夏川に、もう言葉を返す気力もない。

……『ダンデライオン』のがかっこいいからって。そんな理由か。

でも、こいつにはそっちのが合ってる気がする。ライオンよりたんぽぽ。ライオンよりダンデライオン。

だってなんか、夏川こんな派手な身なりしてんのに、まったく危機感覚えないんだもん。

まあそれは、私がこれから死のうとしてていろんなことがどうでもよくなったからってのも、あると思うけど。


チョコチップメロンパンを食べ終えて、いちごオレも全部なくなった。

私は立ち上がって、パタパタとスカートについた埃を払う。

私より先にとっくに食べ終わっていた夏川は、だらーんと両足を伸ばしてくつろいでいた。

そんな奴を見下ろして、薄く笑みを浮かべる。



「まあ、ありがと夏川。邪魔されたとはいえ、最後におなかが満たされたからよかったわ」 

「………」

「とりあえず、食べ終わったならどっか行ってくれない? 私これから、さっきの続き──、」
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