ちょっと黙って心臓
「いや、よそよそしくていいんですよ。別にサトコさんのペットじゃないんだから」

「あ、花岡くん、ここのハムスター用ひまわりの種切れてるよ。補充しないと」

「………」



そしてこの無愛想な彼、花岡くんは、このペットショップの従業員さん。

去年大学を卒業してそのまま就職した彼とは、もう1年ちょいの付き合いだ。ま、私はそれより前からこのお店に通っていたわけだけど。

花岡くんが来る前は、快活でサバサバしているお姉さんがいた。でも、妊娠をきっかけに退職することにしたらしい。

ちなみにあとは店長夫婦がいるんだけど、ふたりは新しい生き物の開拓とかでしょっちゅうアフリカだかアマゾンだかに行っているんだって。

だから基本的に、このお店にいるのは花岡くんひとりだ。

……ま、お世辞にも流行ってるとは言えない感じのお店だから、ひとりで回すこともわりと難しくないのかもだけど。

でも今日までなんとか続いているということは、花岡くんの手腕のなせる技なのだろう。



「あーあ、いいなあ、ペットのいる生活。私も飼いたいなあ」



今度はゲージの中のわんこたちと挨拶しながら、今まで何度言ったかわからないセリフを吐いた。

そしてそれに、花岡くんもいつもと同じ言葉を返してくる。



「飼えばいいでしょう。常連だから多少勉強しますよ」

「やーうー、だってウチのアパートペット禁止だもんよー」

「じゃあ引越せば」

「そんなひょいって簡単に引越しできれば苦労しないよー」
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