ちょっと黙って心臓
Cace.5:青い春のふたり
もしこの世に『全国きょとん顔選手権』なるものがあれば、間違いなく上位にランクインできるだろう。

それくらいの見事なきょとん顔で、目の前のソイツは俺のことを見上げていた。



「……どうしたの? シン」



ベッドの上で、両手首をおさえつけるように俺に押し倒されているこの状態でも、芽衣は「今日の晩ごはん何?」的なノリで、そう訊ねてくる。

……どうしたのってなに。おまえこそ恥じらいとか戸惑いとかその他もろもろ乙女として大事なモノどこにやったの。

思わず脱力しそうになる自分を奮い立たせて、俺は彼女を見つめる。



「……芽衣、この状況で、なんも思わない?」

「? 『なんも』って、なにが?」

「………」



本気で首をかしげている様子の彼女に、早くも2度目の撃沈。

俺は心の中で思いっきり頭を抱えながら、深くため息を吐いた。



《なあ、芽衣。3秒だけ、目ぇつぶって》

《一体、な、何すんの》


《──世界が、変わることだよ》



あの春の日の、騙しうちみたいなキスから、もう1年が経つ。

あれから無事俺たちは同じ大学に合格して、1週間前に入学式も終えたばかり。

そうして彼女は、実家暮らしのときと同じように、自分のアパートからも近い俺のアパートに入り浸っているわけだけど。


……あの、キス以降。

まったくと言っていいほど(男女的な意味で)接触がないのは、いかがなものか。
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