ちょっと黙って心臓
「し──、」

「……芽衣は、俺にこういうことされても、ドキドキしない?」

「え?」



不意をつかれたように目をまるくする彼女に、ツキンと心が痛んだ。

芽衣にとって、俺のことは“大事”だけど、“恋人”としては認識されてないような気がする。


離れるのが寂しいのは、幼なじみだから?

こんなに無防備でいられるのは、俺が恋愛対象じゃないから?


だけど、でも、俺は。



「……俺、芽衣子のこと、すきだよ」



大事な話をするときは、ちゃんと本名で呼ぶ。

自分の中でそんなルールができたのは、いつの頃だったか。

そして俺に組み敷かれた状態で、相変わらずきょとんとした表情をしている彼女。

この、本気と下心しかない一世一代の告白を、コイツはきっとマンガや食べ物に対しての『好き』と同じように捉えているに違いない。


……仕方ない、強行手段に出るか。

そう思って、芽衣の服に手をかけようとしたとき。



「……あたしは、」

「え、」

「あたしは、シンのこと、だいすきだよ」



そう言ってふわりと笑う芽衣に、俺の方が固まる番だ。

芽衣が俺のことを『好き』なのは、言葉にされなくても、とっくの昔から知ってる。

けどそれが恋愛感情なのか、それともただの家族愛みたいなものなのかが、ずっとわからなくて。


……でも、なんか。

はじめて、芽衣の口から、『すき』って言葉を聞いて。

今のは違うって、わかった。

家族とか、友達に対してじゃない。俺だけに言ってる『すき』なんだって、わかった。
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