ちょっと黙って心臓
思わず、笑みがこぼれる。



「……シン?」

「なあ、芽衣。俺にこうされて、ドキドキする?」




さっきは、返事を待たずに言葉をさえぎったけど。

また同じ質問を繰り返しながら、芽衣の左頬を包むようにして撫でると、彼女はくすぐったそうに目を細めた。




「するよ。でも、いつものことだもん」

「いつものこと?」

「うん。シンといると、いっつも心臓うるさいの。だからもう、いちいち気にしないことにしたんだよ」



だってちっとも黙ってくれないんだもん、わたしの心臓。

そう言って拗ねたようにくちびるをとがらせる芽衣に、今度こそ声に出して笑った。



「ははっ。じゃあ芽衣、今もドキドキしてるところ悪いけど──もっと心臓うるさくなるようなこと、していい?」



一応疑問形なくせに、芽衣の返事を待たないでそのくちびるを塞いでしまうあたり、結構俺は性格が悪い。

でも、まあ、これくらいは許せよな。だって今日までずっと、我慢してたんだからさ。



「……ふ、あぅ、し、心臓が……」



真っ赤な顔で泣きそうになりながら訴えてくる芽衣の耳に、俺は意地悪のつもりでそっとささやく。



「だめ。まだ、ドキドキしてて」



芽衣の心臓、黙んなくていいから。

だって芽衣が俺にドキドキしてるの、今この瞬間、ひとり占めしたいからさ。









/END
2014/11/11
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