ちょっと黙って心臓
「ったく……かわいくねーな」

「──……、」



ぐさ、と、心にトゲが刺さる音がした。

かわいくない、なんて。そんなの、言われ慣れてるはずなのに。

この、ふたりきりの教室のせいかな。なんだかさみしい気持ちになってくる、オレンジ色の夕陽のせいかな。

どうしてか、今とても、悲しい。



「ッ、すず──」

「……どうせ、かわいくないもん」



視線を日誌に落として、くちびるをとがらせて。あたしは小さく呟いた。

そのまま椅子から立ち上がり、机から離れて消しゴムを探そうとする。



「鈴村、」



なんだか志摩があたしの名前を呼んでいるけれど、構うことなく消しゴムを探す。

……どこよ、あたしの消しゴム。馬鹿志摩が石頭のせいで結構遠くまで飛んでっちゃったんじゃないの。


奴がいる机に背中を向ける形で、その場にしゃがみこむ。

ひざを抱えると、今の自分が、ひどく滑稽に思えて。じわりと、涙が浮かんだ。

……もう、なんなの。なんであたしは、すきなひとの前ですら、かわいくなれないの。

ほんとはもっと、志摩の前ではオンナノコっぽくしてたい。もっと素直で、思わず守ってあげたくなるような。そんな、かわいげのあるオンナノコになりたい。

そうしたら、きっと志摩だって──あたしに、やさしくしてくれるんだ。
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