ちょっと黙って心臓
ガタッと、後ろの方で音がした。それと同時に、「~~あーもう、そうじゃなくて!」って、志摩の焦れたような声。

足音が近付いてくる。だけどあたしは、そこから動かないまま。

うつむいた視界に、志摩のちょっと汚れた上靴が映った。



「……ごめん、鈴村。そうじゃなくて」



言いながら、視線を合わせるように、志摩はあたしの目の前にしゃがんだ。

そして、びっくりする。だって今の志摩の顔、すごく赤いから。

あ、夕陽? 教室が、オレンジ色になってるから──。


驚きで、浮かんだ涙をぬぐうことも忘れて。あたしはまじまじと志摩の顔を見つめてしまう。

目元の涙に気付いたらしい志摩が、一瞬固まるけど。また、一言一言噛みしめるように、口を開いた。



「……ごめん。かわいくないとか、ウソだ」

「え、」



たった今聞こえてきた言葉に、自分の耳を疑う。

ぽかんと口を開けてしまったあたしの前で、志摩はどこか必死な様子で、続ける。



「おまえのこと、かわいくないとか、思ったことないし。つーか、かわいいから、ふたりきりだと俺何するかわかんなくて、マンガとか」

「……え、し、しま……」



な、なにこれ。なにがどーなってんの。

今目の前でしゃべってるの、ほんとに志摩? 志摩の形したナニカじゃないの??

だって、それじゃないと、志摩があたしに、こんなこと言うわけ──。
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